モャッパ!

生きにくいよを生きやすく

男性助産師はいつ生まれる?

前回、以下の記事を書いたところ、コメントで「まだまだ勉強不足」と男女間問題についての参考記事を教えてもらえました!まだまだフェミ初心者なのでまことありがたいです……。

 

kagecage.hatenablog.com

 

 

今回はその中の一つ、「男性助産師」について調べてみることにしました。ちょっと前に話題になってたやつです。

anond.hatelabo.jp

 

自分もブコメしたのですが、やっぱりこれはどう見ても男性差別……。

それを放置してるってどういうことなんだろう?と調べてみたところ、いろいろなことがわかってきました。

 

結論からいうと、想像以上に、男性助産師をめぐるバトルがおきていた!!!!(知ってる人は知ってるんだろうけど)

 

参考にしたのはこちらの「男性助産師是非論」。

https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20180316211003.pdf?id=ART0006465167

12ページくらいなのでちょっとがんばればすぐ読めますが、わりとかっちりした文章なので、わかりやすいようざっくり噛み砕いてご紹介。

 

 

男性助産師をめぐる議論、スタート

 

いまの看護職はおおきく看護師、保健師助産師、准看護師で構成されています。

議論のはじまりは1979年(昭和54年)。

当時、男性は、看護士になれても、保健士助産士(当時は保健婦助産婦のみ)にはなれませんでした。そこで千葉大学看護学部の部長が、「男性も保健婦の資格をとれるようにしてください」と要望を出します。

厚生省では、当時少子高齢化が進んでいたこともあり、資格対象の拡大の話はわりと好意的にうけとられすすめられたようです。

ここで、保健士の検討とあわせて「助産の資格はどうしましょう?」という話がはじめてでてきます。

1984年(昭和59年)には、三婦一本化ということで名前が男女あわせて「看護師」に。

「看護士は保健婦助産婦の資格をとれるようにしましょうね〜」という運動もスタート。

 

助産婦会の反対

 

ここで困ったのが助産婦たち!

看護協会は看護婦と准看護師がほとんどを占めていたので、助産婦の意見はなかったものにされてしまいます。

全ての患者が女性であるため、現場に男性を導入することに問題を感じていた助産婦たちは、「助産婦会」を設立。

1988年(昭和63年)、看護士が助産婦資格をとれるようすすめられていたところ、助産婦会が「入学の途を開くことは認めるが、女性が適正である助産婦職に男性の導入反対」という意思表明をします。

はっきり男性差別……!

しかしこの時点では、「デリケートな妊婦を男性に任せられるのか? ケアされる妊婦には大丈夫か?」という議論がほとんどされていなかったので、反対を表明した助産婦さんの気持ちもよくわかります。

自分もこの時に助産婦ならば、「男性が助産資格をとれるのはいいけれど、なんの準備もなく男性が助産士になれるようにするのは大丈夫?きちんと議論や対策を考えるべきじゃない?」と一時反対の立場になっていそうな気がします。

 

とにもかくにも、これにより、話は国会提出にはつながりませんでした。

これにより看護士は、看護師と保健師の資格はとれるけれど、助産師の資格はとれない、という状況になります。

 

男性差別だという指摘

 

もちろんこれは男性差別である、という話になりました。男性も助産士になれるようにすべき、という方向で話は進んでいきます。

それを受けて1991年(平成3年)には、それまで男性が受けられなかった「母性看護学」が受けられるように。

1993年(平成5年)には、保助看法が改正されて、はじめて男性の保健士が誕生!

けれど、「助産婦資格の男子への拡大」アンケートは、その当時80%が「反対」でした……。

しかし、1998年(平成10年)、大学で学ぶ男子一名が助産婦教育をうけたことをきっかけに、日本看護系大学協議会が「男子学生にも助産婦資格を拡大してください」と要望を提出。これを受けてふたたび、助産婦会が反対の意を表明します。

 

このあたりで「助産婦資格を男性にも派」VS「助産婦会」という構図がはっきりしてきました。(ちなみにこれは男VS女、という構図とは違います。男性に助産の資格がとれるよう働きかけた議員やこの参考資料「男性助産師是非論」も書いた人たちも女性です。)

 

ここから膠着状態が続くのかな……と思いきや、意外にも、話は転がりだします。

 

選択権があれば

 

助産婦会は「妊婦が自己のケアを受ける人の選択を保証できる段階で、助産士を導入する」と表明し、反対をするようになりました。

「妊婦がケアしてくれる相手を選べないならダメ!」てことですね。実際、産婦人科医にくらべ助産婦は女性の日常的な部分にも介入するため「男性だと恥ずかしい」「気になってしまう」という人も当然います。デリケートな妊婦さんにとって選択肢がないのは問題なので、この主張は妊婦の気持ちによりそった意見といえると思います。

 

これを受けて1998年。妊婦さんがケアしてくれる相手を選べるよう、法を一部改正しようという講演会などが、助産婦会で開かれたりしています。

また1999年には「男女雇用機会均等法」がうまれて、助産婦だけが唯一男性参加のない職種になります。厚生省からも「男子導入にむけて努力してほしい」という要望が送られたりしています。

そんなこんなでじわじわと、男性が助産婦資格をとれるよう話がすすみます。

そうして1999年2月、助産婦会では理事総会が行われ、男性への資格拡充についてアンケートがとられました。

 

男性が助産婦資格をとることについて、

1、賛成

2、「妊婦褥婦の選択権を保証すること」を「附帯決議」として賛成

3、反対

という形でアンケートはとられ、結果として、2の「選択権を保証する」形であれば賛成という答えが賛成多数という形になりました。

 

よかったね!と思ったら……

 

ここで「なーんだ!助産婦会も認めてくれたんじゃないか!やっほい!」とニッコリしたのですが、世の中そう簡単にはいかない……。

妊婦褥婦の選択権をセットにした「保助看法改正案」が提出されたものの、審議未了で廃案に。

その後、看護協会がもう一度要望を提出するも、賛否両論な世論を前に、「時期尚早」とされ、名前だけが男女が統一される形となって終わります。

2002年には、助産婦会では推進慎重論が出され、「1年間凍結し、助産婦会会員のアンケート調査を行い、その結果を協議・検討して推進する」という形に

 

……結果的には無期限延期、という形になってしまいました。

 

 

反対の声

 

男性助産師には抵抗がある、という女性の気持ちは、自分も女性なのでわかります。

胸や性器を見られるのはやや抵抗がありますし、男性産婦人科医に子宮がん検診をしてもらった時も「このやろー!指ガッガッてやりすぎだろ!痛いのわかってんのか!」とキレて帰ったりもしました。

でも、男性は資格すらもとれないとなると、明らかに男性差別です。

「男性にはきめ細やかな気遣いができない」なんていうのも根拠のない決めつけです。繊細な作業をしている男性はいっぱいいます。(どうでもいいんですが反対派からは「女性脳と男性脳があるし〜」という意見が多い……。)

出産に携わりたいなら産婦人科医になればいい、といった意見もありますが、経済的な問題で産婦人科医になれない人、それでも出産に携わりたい人だっているでしょう。

 

どうすれば…… ?

 

一体どうすれば男性は助産師になれるのだ……。

 

元増田のブコメにもあった通り、男性助産師は妊婦の夫への指導などの仕事にはうってつけだろうし(個人的に、出産後体調・メンタルともに荒れる妻への対応に窮する夫への指導が男性同士でなされていたら安心感がわくのでとってもいいと思う)、その他思いがけない視点をもたらしてくれるかもしれません。

 

くりかえしになりますが、一方で、女性の「出産するなら女性助産師がいい」というのは、おかしな考えではないと思います。むしろ着衣文化の中では自然な考えです。

それにやはり妊婦特有の悩みを相談したい時、同性がそばにいるのは心強いと自分も思います。

その気持ちに対して「その考えはおかしい!男性を選択しないのは男性差別的だ!」と責めることは、妊婦の気持ちに寄り添っていない非効率な抗議と感じます。

しかし妊婦が男性助産師を忌避する風潮が強いかぎり、男性は助産師資格を得る機会を与えてもらえない。

……いや、本来なら法にのっとって行政が資格をあげるべきな気がする……。責任を負いたくない上が日和ってるだけのような……うーん。

 

こうなると俄然、助産師を目指したい男性の実習につきあいたくなってくる!妊婦じゃないけど!

 

男性助産師を積極利用する女性が増えるよい方法はないのかなあ? 

地道に、女性に男女同権(フェミニズム)の意識を広げていくのがいいのか。それとも、夫婦別姓の話のように、助産師になりたい男性が不利益を被っていると訴える、という手も使えるのだろうか。

いずれにせよこれまでの流れは学べたので、また勉強してみようと思います。おー! 

 

 

 

 

しかし女性の一部が「男にはできない」とか「気持ち悪い」などと言ってているのを見ると、無理解にやるせなくなってしまう……。海外では出産取り上げ時だけ女性に変わるなど作業分担をしているところもあるのでなおさら……。

(もちろん海外の男性助産師も、かなり苦労されているそうです。資料のP89には、英国米国の男性助産師についても触れられているので、一読してみたらいいかもしれません。)